といえば瓜。瓜畑の番を命じられた男が乾きにたえかねて瓜を割るとそこから水が溢れ出し、という場面が出てくる物語。子どもの頃「まんが日本昔話」で見たのか、それとも図書館で借りた民話集か何かで読んだのか、あるいは過疎の村の小学校での給食の時間に繰り返し聞いていた「お話でてこい」の中の一話だったのか記憶がはっきりしないけれど、ともかくこの場面はずっと僕のお気に入りで、七夕にはもちろんのことそうでなくてもなにかというと「瓜からごくごく水を飲む男」、「水が滔々と流れる川ー瓜畑に呆然とたたずむ男」のイメージを頭に思い描いたりしてきたのでした。
そして今宵、あらためて瓜畑の男を、恍惚と悔恨とそれからたぶん畏怖を浮かべる男の顔を思い浮かべてみたら、思った以上にぐぅっと切ない気持ちになって、ついでに空想が横にそれ、あぁこれはドラキュラの顔だ、愛する女の首筋に牙をつきたてた吸血鬼の顔だ、という具合になった結果、天の川のほとりにドラキュラ伯爵がやってきて、瓜男の隣にたたずむことになりました。
さて、ところで、この七夕のお話(天女のお話だったか)に出てくる瓜は、「おとぎ話に出てくる美味しそうな食べ物」の第二位か三位くらいに選びたい、と常々思っているのだけれど、一位は何かと言えば、これはもう文句無しに「孫悟空の桃」。瓜の男と同じように桃園の番を命じられた悟空は禁じられた桃を食ってしまうのだけれども、悟空の場合すべて食べ尽くしたあげく、そこには一点の悔恨もないわけで、そのあたりが瓜男や吸血男にくらべてずっと清々しい。清々しいので第一位。
というわけで、今年の七夕のイメージは最終的に「天の川のほとりにたたずむ一人の男と吸血鬼、川下には呪いのことばをはきながら清々しく流されていく猿」に決定です。